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「皇室献上米」に選定されたコシヒカリ。稲作を広めた神様のお膝元で育ったお米。

伊彌彦米
もの
弥彦エリア

Information

商品情報
名称 伊彌彦米5kg 3,200円(税込)
情報・購入問い合わせ先
名称 農事組合法人第四生産組合
アクセス 新潟県西蒲原郡弥彦村井田1552
電話番号 0120-81-5054
URL https://gensenmai.com/farmer/daiyonseisankumiai
伊弥彦米について
URL http://iyahiko-mai.com/

先祖代々、弥彦山の恩恵を受けて

「昔、このあたりは沼地で、曽祖父が弥彦山を削って埋めて田んぼにしたんですよ。農地解放の時で、自分で埋めた土地が自分の土地になったんです。機械もない時代、大変だったと思います」

そう弥彦の農業の歴史を教えてくれるのは、代々弥彦で農業を営んできた竹野勝行さん。14軒の農家で構成されている農事組合法人第四生産組合の組合長を務めて3年になる。この第四生産組合とは、父である竹野勝治さんが立ち上げ、初代組合長を務めた組織だ。

東京の農業大学を卒業後、Uターンして就農した竹野さん

田んぼの正面に堂々とそびえる弥彦山。第四生産組合では、「伊彌彦米」(コシヒカリ)・「やひこ太郎」(しいたけ)・「大粒大豆」・「ゆきちから」(小麦)の4品目を生産している

就農して22年になる竹野さんが肌で感じる「弥彦らしい農業」の鍵、それが「風」と「山」だという。

にしかんの大きな特徴である「強風」は、農業にとって必ずしもデメリットではない。「風に吹かれて常に稲が動いているので、空気がこもらず、病気がつきにくいんですよ」と竹野さん。

田んぼと海の間には弥彦山がある。夏場、日本海に夕日が沈む頃には山がいち早く影を作り、1日の中でバランスよく寒暖差が生まれる。弥彦の気候は、米はもちろん、おいしい枝豆を育むのにも適しているそうだ。

来年の米作りの準備として、取材時の11月には肥料をまいていた

さらにもう一つ、弥彦の農業を特徴付けているのが「人」だ。

「それぞれやっていることは違っても、みんな『ファーマーとして死ぬまでここでやってやろう』という強い意志が伝わってきて、それがすごい刺激になるんです。お互いに刺激し合い、向上し合い、みんなでよくなろうとしている。時々顔を合わせて、情報交換や情報整理をして、それぞれが地域に根付いた将来を考えて動いているんです。ただ、『みんなで!』と肩に力が入るのではなくて、自然と共有されている感覚なんですよ」

3法人がタッグを組み、前代未聞の会社を設立

竹野さんは2019年7月、弥彦村内の生産者組織2団体と共同出資を行い、「株式会社伊彌彦」を立ち上げ、代表取締役に就任した。設立の目的は「弥彦のこれからの農業を考えていく」こと。そのために後継者育成や商品開発、農産物の販売、観光連携など、取り組んでいきたい事業はたくさんあり、話し合いを重ねている最中だ。

「昔から個々で農業をするよりも一つの組織として農業をしていけたら、合理的だしいいのではないかと考えていました。この組織が若手と上の世代とをつなぐパイプ役にもなりたいですね」

第四生産組合には、農家出身ではない若いスタッフの姿も

農業に関わる法人が集まって株式会社を立ち上げた前例は新潟県ではなく、組織作りの過程は常に試行錯誤とのこと。この動きに新潟県の職員や若手の農業従事者も高い関心を寄せており、株式会社伊彌彦の発展が新たな農業のモデルケースになることが期待されている。

皇室献上米に選ばれたブランド米「伊彌彦米」

2016年、弥彦産のコシヒカリはブランド化され、「伊彌彦米」という名前で市場やふるさと納税の返礼品として展開するようになる。

強い旨味と粘りが特徴の伊彌彦米は、冷めてもおいしい


オリジナルのジャンパーも作成

伊彌彦米は農薬・化学肥料を50パーセント以上減らして生産されている特別栽培米コシヒカリで、肥料には弥彦で育てられている豚の堆肥を採用。循環型農業の仕組みが自然とでき上がっている。


収穫後も遠赤外線乾燥や色彩選別機による選別、低温貯蔵保管など独自の基準で高品質がキープされ、出荷直前に精米する

ポスターに書かれた「新潟に稲作を広めたのは彌彦の神さまでした」という文字は、弥彦神社に祀られている天香山命(アメノカゴヤマノミコト)が、神武天皇の命を受け、住民に塩や漁、そして稲作など農耕術の基礎を教えて新潟に広めたという伝説に基づくもの。

「新潟の稲作発祥の地、だからこそ弥彦の米をブランド化し、発信する意味があるんです」

伊彌彦米のブランディングも「村のみんなで共有して育てていくブランドを作りたかった」と話す竹野さん。株式会社伊彌彦も伊彌彦米も、言葉の端々に「一緒に」という地域愛が伝わってくる。

「自分の土地をちゃんと守りたい、という気持ちがあるのは大前提で、それだけでは何も前に進まないし、誰も認めてはくれません。手をとりあうことで、できることも増えるし、次の世代に受け継げることがあると思うんです。わがままなのかもしれませんが(笑)」

伊彌彦米はふるさと納税サイト「さとふる」に出品したところ、1位を獲得したこともあるほどの人気商品に。県外でイベント出店した際にも「知っている!」「ふるさと納税で買ったことがあるよ」と声をかけられるなど、徐々に認知度のアップを竹野さんは実感している。

そんな中、さらに伊彌彦米は大きな快挙を成し遂げる。2018年、第四生産組合が作った伊彌彦米が皇室献上米として選定され、新嘗祭献穀献納式において天皇陛下に献納されたのだ。

これは米の味や生産方法だけではなく、竹野さんの父・勝治さんの農家として地域貢献や後継者育成など長年の功績が大きく評価されてのことだった。

「親父のこと尊敬していますよ」(竹野さん)

刺激しあえる仲間とともに、弥彦の農業の未来を耕す

株式会社伊彌彦を構成する3法人は、食の安全や環境保全に取り組む農場に与えられる認証「JGAP」をそれぞれ2016年に取得した。取得の裏には、弥彦の農業の後進育成という大きな目的があるという。

「JGAPを採用すると、会社の仕組みが『見える化』して、従業員にとって分かりやすくなるんです。今までだと『あれをあーして、ここにそれしておけばいいんだよ』って指示で終わっちゃっていたんですよね(笑)。ベテランだとわかるけど、若手にそれで理解しろという方が無理な話なんで」

普段の食卓用だけではなく、伊彌彦米をお土産としても着目している竹野さんは今、新しい商品「伊彌彦米を使ったパックご飯」の開発に取り組んでいる。弥彦には国内外から毎年数多くの観光客が訪れており、現在はお土産用に3合パックを用意しているが、さらに手軽に伊彌彦米を食べられる商品を目指している。

毎年、収穫した伊彌彦米は弥彦神社に奉納されている

最後に、竹野さんにこの地域の好きなところを聞いてみたところ、返ってきた答えが「意外とないんですよ」。さらに言葉を続けて「弥彦山も彌彦神社も、この環境も、自分にとって特別なことじゃない、当たり前のことなんです。ただ大学時代、東京で色々な人に会ったけど、弥彦神社を知らない人はいなかった。だからこれを『当たり前』と言えることはすごいことなのかもしれないですよね」とのこと。

「現状維持」では衰退してしまう。しかし飛び道具的な施策は一時的な作用しか生まない。先祖からの系譜を受け継いだ地域の暮らしに根ざした営み。そこから浮かび上がってくる課題解決への地道な挑戦は、まさに未来を耕す作業。一朝一夕では、そして一人ではできないものだからこそ、一歩ずつどっしりと前進していく弥彦の農業がどんな進化を遂げていくのか楽しみになった。

取材・文/
丸山 智子
撮影/
内藤雅子(SUNDAY photo studio)